3.乳幼児期の子どもをもつ家庭へ、「メディアの影響」に対する助言や支援

令和2年10月12日(月)

 心地よい秋風が抜ける頃となりました。高く澄み切った空に、こころも晴れ晴れとしますね。コロナ禍から半年が経ち、皆さんも生活の中の変化に慣れて、以前より過ごしやすくなっているでしょうか。

 さて、今からちょうど半年前の新しい年度を迎える頃、ゆうたくん(仮名)という年長の男の子がご両親と相談にやって来ました。ゆうたくんは、3歳児健診の時に言葉の育ちが少しゆっくりで、言語聴覚士の先生が行っている相談に月1回通いながら、時々私のところにも来て、ご家庭や幼稚園での様子についてお話しを伺っていました。お母さんの方から「ゆうたが家で言うことを聞かなくて大変なので、すぐにでも心理相談に。」と、ご希望があり来られました。3歳から2年間の育ちの中で、お喋りも増えて、お兄ちゃんらしく振る舞うようになり、幼稚園でもいきいき過ごす様子がみられていたので、突然の相談希望にこちらの方が驚いたほどでした。

 ゆうたくんは、元気いっぱいの様子で部屋に入って来て、走り回っています。ゆうたくんと話をしたかったので、着席するようお願いしましたが、私の声はゆうたくんの耳に届かず、勝手におもちゃを引っ張り出して遊ぼうとしています。困り顔のお母さんは、「こんな調子で誰の声も耳に届かなく、好きなことばかりしていて、それを止めさせようとするとギャーギャー叫びます。」とのことでした。以前のゆうたくんであれば、何も言わなくても着席して、幼稚園や年の離れた1歳の妹の話などをして、話が終わると「○○で、遊んでいいですか。」と許可を求めていましたが、目の前のゆうたくんはまるで別人のようです。ゆうたくんに何が起こったのでしょうか…。

 とりあえず、声が届かないゆうたくんにはそのまま遊んでもらい 、ご両親から最近の様子について詳しく話を伺うことにしました。幼稚園は、年長組に進級した途端に閉園となってしまい、家庭でずっと過ごしていたようです。お母さんは、ゆうたくんを連れて外出することに危機感があったため、家庭で幼稚園と同じ生活リズムで過ごせるよう、頑張っていたそうです。ところが、お母さんが食事の支度をしなければいけないときや、妹さんを寝かしつけないといけないときがあるので、静かに待ってもらうため、スマホの動画を見せていたそうです。初めは、それを終わりにしようとすると、応じていたのに、段々とスマホを渡すことを渋るようになり、泣き叫ぶようになり…という具合で、今に至っていることがわかりました。

 お父さんが帰宅し、泣き叫ぶゆうたくんをうるさがり、スマホを渡すように言われたため、お母さんは渋々応じていました。しかし、ゆうたくんはスマホを見ながら寝るようになって、寝る時間が遅くなったり、朝がすっきりと起きられなくなったり。また、落ち着きのない様子が続き、誰の声も届かなくなってしまったということでした。一緒に相談に来たお父さんは、身体を小さくして「もうこの子がすごい声で泣き叫ぶものだから、近所迷惑になると思って…。」と、気まずそうにしておられました。ゆうたくんに何が起きていたのか、皆さんもおわかりでしょう。

 その後、ご夫婦で話し合い、今後はスマホを貸せないことをゆうたくんに伝え、なるべくゆうたくんの目に触れないよう2人で協力し、休みの日には、お父さんも頑張って釣りや散歩に連れ出すようになったそうです。幼稚園が再開して日常が戻ると、ゆうたくんはスマホの存在も忘れたように、もとのゆうたくんに戻ったとお母さんからご連絡をいただきました。

 このメディアの影響を受けた子どもの行動事例は、コロナ禍における相談内容で最も多く、その影響は現在も続いています。そのことについて、次回詳しくお話ししようと思いますが、皆さんもメディアやSNSといった情報に振り回されていないでしょうか。そのような便利なツールとの付き合い方をも、コロナ禍という状況によって、改めて考え直す必要があることをゆうたくんのご家族に教えてもらった気がします。

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