花田 道子 先生

④体験活動の教育的効果

平成29年4月13日

体験活動とは、文字どおり、自分の身体を通して実地経験する活動のことであり、子どもたちがいわば身体全体で対象に働きかけ、関わっていく活動のことです。また、体験活動は、豊かな人間性、自ら学び、自ら考える力などの「生きる力」の基盤や子どもの成長の糧としての役割が期待されています。これまで、思考や実践の出発点あるいは基盤として、あるいは、思考や知識を働かせ、実践して、よりよい生活を創り出していくための体験が必要であることをお話しさせて頂きました。その実例を紹介します。

ある児童数のとても少ない地方の小学校でのできごとです。「命の授業」として、豚のお世話を子どもたちが毎日行い、運動会でも一緒に走ったりとクラスの仲間として一緒に過ごしてきました。その豚とのお別れで、大泣きをしていたある女の子は大人になってどのような職業に就いたと思いますか?答えは、牛の獣医さんになられていました。豚とのお別れの後、家で豚を飼ってもらったそうです。小学校の時に豚と過ごした体験から、それが職業にまで繋がるとは、子どもの時の体験ってとても影響力を持っているのだなと感じました。

また、先日「みんなの学校」の9年間の軌跡のドキュメンタリー映画の上映会に行って来ました。ここに出て来る大空小学校は不登校ゼロの小学校です。そして、障がいの有る無しに関わらずみんなが一緒のクラスで学んでいる学校です。「みんながつくる みんなの学校」を合言葉に、すべての子どもを多方面から見つめ、全教職員のチーム力で「すべての子どもの学習権を保障する学校をつくる」ことに情熱を注がれていました。障がいを抱えた子どもや、不登校だった子どももみんな一緒のクラスで勉強をしていました。

私は、障がいを抱えた子どもたちを対象としたスポーツ教室を大学で行っています。スタッフはもちろん大学生です。障がいを抱えた子どもたちと関わる中でとても良い勉強をさせて頂いています。子どもに思いが伝わらなくてたくさん困ったり、失敗したり苦労したりする場面もたくさんあります。でも、将来教員を希望している大学生だから頑張れます。勉強になるとも思えます。大空小学校の子どもたちは、クラスに障がいを抱えた友達と一緒に勉強するためには、自分はどうしたら良いかを1番に考えていました。決して仲間外れにはしませんでした。我慢ではなく、一緒に楽しむためにはどうしたら良いか一生懸命考えていました。そうなるように先生方が全力でサポートされていました。その姿を見て、大人が変わりました。私は、そのような体験をした子どもたちがどのような大人になっているかとても楽しみです。きっとその子どもたちの周りは、障がいを差別や特別視することなく、一緒に生活できる平和な社会を創ることができるのではないかと思います。

③子どもの体力向上のために

平成29年3月6日

近年、子どもの体力が低下し、大きな問題として取り上げられています。文部科学省が実施している「体力・運動能力調査」によると、子どもの体力・運動能力は、昭和60年ごろから現在まで低下傾向が続いています。
子どもたちの体験活動の様子を見ていると、体力が伴っていないがために、思ったように活動できていない場面が増えています。

体力は、人間のあらゆる活動の源であり、健康な生活を営む上でも、また物事に取り組む意欲や気力といった精神面の充実にも深く関わっており、人間の健全な発達・成長を支え、より豊かで充実した生活を送る上で大変重要なものです。
小学生の時は、短距離走だけでなく、サッカー、ドッチボール、水泳などいろいろなスポーツに挑戦することが大切です。私は、北九州市の総合型地域スポーツクラブが実施しているジュニアスポーツ体験教室に、初回から現在まで指導に関わらせて頂いています。このジュニアスポーツ体験教室の良いところは、いろいろな小学校から子ども達が集まっているということ、低学年の間は走る・跳ぶ・投げるを基礎に運動遊びを中心とした楽しくスポーツに親しめるプログラムになっていること、そして何よりも大学生のお兄ちゃん・お姉ちゃんたちが一緒になって遊んでくれることです。スポーツを通して「がんばること」、「ルールを守ること」、「友達をつくること」「協力すること」を学び、将来運動好きな子どもを育てたいと考えています。
子どもの時期に活発な身体活動を行うことは、成長・発達に必要な体力を高めることはもとより、運動・スポーツに親しむ身体的能力の基礎を養い、病気から身体を守る体力を強化し、より健康な状態をつくっていくことにつながります。

保護者のみなさんはわが子の成長について、つい他の子どもと比べ、自分の子どもの進度が遅いとあせってしまいがちです。子どもにはそれぞれ個人差があります。家庭においては、子どもの個性をじっくり見守りながら、親子が一緒に活動する時間や何かに夢中になれる場を作ること、うまくいかないときにちょっとしたアドバイスを与えること、「だいじょうぶ、できるよ」というメッセージを送ることが重要だと思います。

これらのことから、子どもの時期から運動の習慣づけは、小学校生活だけではなく家庭生活においても楽しく運動をさせることが重要であり、地域でも協力し合い様々な運動種目・遊びを行わせる必要があると考えられます。子どもが運動を「面白い」と感じれば、自然と子どもは運動を続けます。まずは興味を持たせること、そのためには実際に「やってみたい」と思わせる工夫が必要です。子どもの頃からしっかりと運動習慣を身につけることにより、小・中・高等学校、成人と年齢を重ねても元気で健康的な生活を送ることができます。

②生きる力を育む「キャンプ」

平成29年1月31日

子どもたちの「生きる力」を育むためには、自然や社会の現実に触れる実際の体験が必要不可欠と言われています。従来、キャンプを中心とした自然体験活動は社会性や自主性の改善に一定の効果があるものとみなされ、盛んに実施されています。

以前、私が関わった不登校の悩みを抱える子どもたちの「キャンプ」で、子どもたちがどのような体験をしているか紹介したいと思います。困難克服体験として登山を行った時のことです。 登り始めてすぐに「これって何の意味があるん、意味ないじゃん、やめようや」と言う言葉が発せられました。登る前に「登山をやりとげよう」と言う目標を掲げ、具体的には「バディ(※注釈)ではげまし合って山を歩こう」、「みんなでペースをあわせよう」、「最後まで歩き通そう」ということを確認して登り始めました。きっと自然の中に身を置いた時のワクワクする気持ちやロープで登ったりするアドベンチャー的な要素の楽しさよりもきつさが先に出てしまい、このような言葉になったのでしょう。

壁を乗り越えようとするとき、ネガティブな考え方や言葉は自分にも周りの人にも弊害となります。本人にとっては何の気なしに発した言葉が、周りの人に多かれ少なかれ影響を与えていることを理解する機会となりました。しかし、一度出発すると何を言おうが自分の足で進まなければ前に進むことはできないし、終わることもできないので面白いのです。登山は自らの意思によって「頑張る」ことを教えることができる体験プログラムとなりました。

また、登山中に捻挫する子どもが出たというアクシデントもあり、スタッフの迅速な対応、そして何よりも同じ班の仲間が自分の荷物を持ってくれたという体験は、不安の中で人の優しさが心に響いたのではないでしょうか。もちろん、登り終えた時の達成感は、何物にも代えられないものがあったに違いありません。

このように、体験する中で子どもたちは葛藤しながら様々なことを感じ、周りの仲間によって助けられながらやり遂げるということを学んでいきます。そのプロセスに教育的意義があると言えるのではないでしょうか?

体験活動とは、文字どおり、自分の身体を通して実地経験する活動のことであり、子どもたちがいわば身体全体で対象に働きかけ、関わっていく活動のことです。また、体験活動は、豊かな人間性、自ら学び、自ら考える力などの「生きる力」の基盤や子どもの成長の糧としての役割が期待されています。つまり、思考や実践の出発点、あるいは基盤として、また、思考や知識を働かせ、実践して、よりよい生活を創り出していくために体験が必要なのです。

みなさん、どうですか?今年の夏はキャンプデビューしてみては?

※ バディ;二人組の一方。また、なかま。相棒。(広辞苑より)

①体験活動の必要性

平成29年1月16日

「自然体験や生活体験が豊富な青少年ほど自己肯定感が高い」

国立青少年教育振興機構が日本、米国、中国、韓国の高校生を対象として実施した調査で、日本の高校生は、米国、中国、韓国の高校生に比べて自己肯定感が低い傾向がみられました。
例:「自分はダメな人間だと思うことがある」日本72.5%、中国56.4%、米国45.1%、韓国35.2%
(出典 高校生の生活と意識に関する調査-日本・米国・中国・韓国の比較-(平成27年度調査)より)

自己肯定感とはなんでしょう?自己肯定感とは、自分のあり方を積極的に評価できる感情、自らの価値や存在意義を肯定できる感情などを意味する言葉です。(出典 実用日本語表現辞典)自己肯定感が高い子どもとは、「自分が価値のある存在である」と感じていたり、自分に自信がある子どもだといえます。その特徴としては、様々な物事に取り組む意欲が高いことがあげられます。学習や労働といった具体的な対象への意欲の減退だけでなく、成長の糧となる様々な試行錯誤に取り組もうとする意欲そのものが減退している背景には、青少年の自己肯定感の低さなどがみられることが指摘されています。(出典 中央教育審議会 次代を担う自立した青少年の育成に向けて(答申)平成19年)

ところで、あなたのお子さんは「自分の身の周りのことを自分ですること」ができますか?
なんでも先回りして「子どもが困らないように」とやってあげていませんか?これでは、自分で解決する力は育ちません。このことは一見優しさのようにも見えますが、実は子どもにとって「自分で出来ないこと」が自己肯定感を低くしているのではないかと考えています。

では、どうしたら自己肯定感を高めることができるのでしょうか?国立青少年教育振興機構が小学生、中学生、高校生を対象として実施した自己肯定感に関する調査では、「自然体験や生活体験が豊富な青少年ほど自己肯定感が高い」ことが明らかにされています。

「キャンプ」には「Learning by Doing(体験を通じて学ぶ)」という特性があります。
2020年から実施の小学校学習指導要領、2021年から実施の中学校学習指導要領には、討論や発表を通じて課題を解決する「アクティブ・ラーニング」の導入が検討されていますが、この手法こそ「キャンプ」が大切にしてきたものです。

キャンプは自然との関わり方を学ぶ場でもあります。例えば登山の途中で雨に合い、ずぶ濡れになったことがある子どもは、次の年のキャンプには必ずしっかりしたカッパを準備して来ます。しかし、次の年は天候も良く雨具がいらない場合もあります。長時間山の中を歩く場合は出来るだけ荷物を軽くした方が身体への負担が減ります。そうなると天候を見て持って行くものを選べるようになります。正に体験学習なのです。特に失敗から学ぶことの方が大きいような気がします。それを自分の力で乗り越えることで達成感や自信となり、自己肯定感が高まるのだと思います。子どもの可能性は偉大です。大人が信じて様々なことを体験できる環境を作ってあげることが大切なのではないでしょうか。少しだけ、背中を押してあげれば良いのです。子どもは私たち大人が思っている以上に大きな可能性を秘めていますよ!