大久保 大助 先生

4 「体験活動」~そのプロセスがもたらすもの~

令和2年3月24日
 

 2019年5月に開催された「こども環境学会」に、私たち「KID's work (きっずわーく)」も参加しました。テーマは「水なし!風呂なし!電気なし!~人生が変わる4泊5日」。大人ばかりの学会で発表したのは、なんと中学・高校生たちです。

 私たちの夏のキャンプでは、子どもたちへの技術指導、プログラムの進行などを担当するのは、中高生スタッフ。そのほとんどが、かつての参加者です。キャンプ前になると、「楽しかったから」「スタッフをしている先輩にあこがれて」と集まってきてくれます。

 この学会では、発表するにあたり「自分たちがこのキャンプに帰ってくる理由」を改めてふりかえり、それを言葉にしてもらいました。

【任されるから】
 このキャンプに来たら「任されている」と実感がわいてくるんです。だから、小学生の時は毎日の仕事を自分の頭で考えて取り組むようになったし、スタッフになってからは、やりがいがあります。「おとな」として認められている責任も感じます。

【仲間がいるから】
 学校や家族とは違ういろんな人たちと苦楽を共にする機会は、普段の生活ではなかなかありません。心から笑ったり、つらいことを乗り越えたり、ひとつの目標に向かって協力をするような時間はとても貴重です。

【時には叱られるから】
 キャンプは、ひとりひとりの注意と協力が必要な場なので、叱られることも多いです。小学生のときにここで叱ってもらったおかげで成長したこともあるし、実は、スタッフになった今でも叱られてしまうことがあるんですが、自分の「おとな」としての行動をふりかえる機会になっています。もちろん叱られたくはないですけどね。
 

「子ども」から「スタッフ」へ。
 彼らの学会発表では、
 (1)子どもの時に活動(キャンプ)に参加し、さまざまな体験をする
 (2)そこで感じたことをふりかえり、自分の成長や学びに気づく
 (3)今度はスタッフとして参加し、体験し、また新たなことに気づき学んでいく
という過程の大切さに私自身が改めて気づかされました。

 「体験」→「気づき」→「行動」というプロセスとそのくりかえし。まさにその目には見えないプロセスこそが、子どもたちの成長には欠かせないと思います。

 もちろんこのプロセスは子ども時代だけではありません。

 私たち大人も、「子どもと接する」→「意識してふりかえることで自分なりの気づきを得る」→「次の行動に生かしていく」というプロセスをくりかえして、子どもを支える大人として成長できるのかもしれません。

 これまで4回、「体験活動とコミュニケーション」「体験活動と子どもの主体性」「体験活動と成果」「体験活動と学び・成長」というテーマで、WEB講座を書かせていただきました。このWEB講座が、子どもの「目に見えない」成長を後押しするみなさんの一助になればと思っています。最後まで読んでいただきありがとうございました。

3 「旅」のお土産

令和2年2月17日

 「かわいい子には旅をさせよ」と言いますが、親元を離れての「旅」は、送り出す親にとっても旅立つ子どもにとっても、それぞれにドキドキするものではないでしょうか。

 私たちは、小学生を対象とした宿泊を伴うプログラムも行っています。参加する子どもたちにとって、これが初めての「旅」であることも少なくはありません。そうなると切っても切り離せないのが「ホームシック」。そのほとんどは低学年の子どもたちだと思われがちですが、高学年の子どもたちも同じなんです。

◆5泊の通学合宿に参加した小学6年生のカイくん(仮名)◆

 同じ学校の6年生8名で、一緒に寝泊まりしながら学校へ行く通学合宿をしていたときのこと。2日目の夜、寝る前にカイくんが泣きながら私のところにやってきました。「どうしたんか」と尋ねると、「さみしい、家に帰りたい。お母さんに電話して」とのこと。しばらく2人で話をした後、「明日、お母さんに電話して、お母さんに決めてもらおう。そしてお母さんが決めたことが何であれ、それに2人とも従う」という約束をして、その日は就寝しました。

 翌朝、子どもたちが小学校に登校した後に、カイくんのお母さんに伝えました。返事は「今は家に帰らないで、もう少しがんばってほしい」。さて、これをカイくんに、いつどんなふうに伝えるか…「学校に迎えに行ってすぐに伝えようか。いや、カイくんの荷物は、まだ合宿先にあることだし戻ってから伝えようか」…迷いました。そして、下校時間。カイくんは、僕のそばに来て開口一番に言いました。「電話の件は、もういいです。がんばります」と。

 しかし、カイくんの心は、完全に吹っ切れたわけはありませんでした。ご飯を炊く当番だったカイくんに、お米を測る単位についての説明をして、「家で毎日どれくらいお米食べてる?」と尋ねると、「お父さんが2杯、お母さんが…」で号泣。それからも、友だちと楽しそうに話していたと思えば、何かの拍子にまた涙がツーっと流れます。周りの子どもたちも、はじめカイくんが泣き出したところを見て、何事か分からずに「カイくんが泣きよる」と言ってきていたのですが、事情を察するとそのことには触れないようになったり、できるだけ家のことを考えないように、隙間時間で話しかけに行ったり、一人の時間を少なくしたり…そんな気配りや支えがありました。

 最後の夜には、「明日帰れるね。よくがんばったね」と声をかけると大号泣でした。「がんばります」の一言は、カイくんが葛藤の中で「覚悟を決め」て発した言葉でした。そして、6日目の朝、カイくんがお母さん、お父さんと会って見せた笑顔はとてもいいものでした。

 「九九の八の段が言えるようになった」「さかあがりができるようになった」など成果が見えやすい勉強やスポーツとは違い、体験活動では、子どもたちが成長する瞬間を目の当たりにすることはなかなかできません。それは、体験し、考え、それを次の行動につなげ、さらに考えを深めて…の繰り返しからなる体験活動は、子どもが将来活かせる「根っこ」としての力になるものだからです。

 「かわいい子」だからこそ、目の前の喜びや成果だけでなく、将来に目を向けて、自立するためのりっぱな根を育てていくことが必要。それができるのは、私たち周りにいる大人であり、「旅」に出せるのは親の役割のひとつだと感じます。そして、子どもたちは必ず、成長という「お土産」を持ち帰ってくれるのでしょう。

2 子どもの主体性

令和2年1月20日

 夏休みのある日のこと。子どもたちがにぎやかに話す声が、公民館に響いていました。
「ハワイに行きたい!」
「いや、USJがいい!」
「お金持ちの気分になりたい(?)」

 そこにいたのは、小学1年生から6年生までの20数名。みんな好き放題に言っています。
―――実はこれは、ある子ども会の「企画会議」の様子。夏休みにみんなで何をするかを話し合っていたのです。

 もともとは、子ども会から「子どもたちが喜ぶおもしろいことをしてほしい」という依頼をいただいたのがきっかけ。子どもたちにとって「おもしろいこと」って何だろうと思いながら、ふと、それを大人が考えるのではなく、子どもたち自身が「したいことを考え、自分たちで実現する」ことが何よりもおもしろいのではないか、そう考えて第1回目の企画会議に至ったのです。

 会議は、まず、自由に自分の意見を出し合うことからスタートです。唯一のルールは、大人も子どもも、他の人の意見を否定しないこと。ひとしきり盛り上がった後は、「みんなが楽しめるもの」や「参加費は〇円以内で」などの条件を加えて候補を選んでいく。そして最後に必要な準備や役割分担など具体的なことを決めます。

 こうした取り組みでは、周囲の大人の支援のあり方がとても大切です。最近は、こういう形でのプログラムを提案させていただくことも多くなりましたが、最も印象的だったのは、「公民館に泊まる」というプログラムでのできごと。子どもたちの間では「夜は、銭湯に歩いて行く」ということで意見がまとまったのですが、公民館から銭湯までは、歩くと30分以上。当然のことながら、大人からすると安全面が心配です。銭湯まで車で送り迎えをすることも含めて、大人の間でも話し合いました。そして、最終的には「やはり子どものしたいことを支えよう」ということになり、子どもたちの企画がそのまま実現しました。普段だったら「まだ~?」「きつい」など言っていそうな長い距離を文句ひとつ言わず歩き、銭湯へ入った、その時の満足そうな表情は忘れられません。

 自分で考えて、決めて、行動する。それは、子どもたちが、これからの変化の激しい時代を生きていくために、ますます必要になっています。安全面や様々な大人の事情もありますから、子どもたちの言葉に耳を傾け、あまり口を挟まずに見守るというのは、なかなか難しいことです。ですが、子どもの主体性は、子どもが「お客さん」の立場である限り、育むことはできません。

 では、どうすればよいのでしょうか?例えば晩ごはん。ちょっと時間と心に余裕のある日には、子どもといっしょにメニューを考え、いっしょに買い物に行って、いっしょに料理してみるのもひとつです。子どもにどのくらいしてもらうかは、子どもの興味や経験、家庭によっても変わってくると思いますが、ポイントは子どもが「自分で作った」と思えること。その達成感が次の挑戦につながる力になっていくのです。

 ちなみに「いっしょにご飯を作る」は、別の効果もあります。子どもたちは、自分で作ったものはおいしいようで、ちょっとくらい苦手な食材でも、自分で作った時にはちゃんと食べてくれます。うちの次男(5歳)は、ピーマンが苦手。次の休みの日に、いっしょに料理をしようと誘ってみようと思っています。

1「不便な暮らし」から得られるもの

令和元年12月26日

 まきでお風呂を沸かし、羽釜でごはんを炊く。

 「ごはん、上手に炊けとうやん」「みそ汁の味噌、もうちょっと多くてもよかったかもね」とにぎやかに話しながら夕食をとる子どもたち。「今日のお風呂めっちゃぬるかった」という子がいれば、「えー、私の時は熱すぎて入れんかったよ」という子も。

 これは、私たちのNPOで行っている「くらしまるごと体験宿」という通学合宿の1コマ。同じ小学校の子どもたちが、5泊6日の「ちょっと不便な昔の暮らし」をしながら通学します。参加する子どもたちのほとんどは、まき割りに必要な鉈(なた)や鋸(のこ)を使ったことはありませんし、火おこしどころかマッチを使うのも初めてという子もいます。

 ですから、プログラムの初日は大変です。道具の使い方から教えていくのですが、これにはかなり手間がかかります。作業ひとつずつを言葉と動作で伝える。教える側の工夫と根気もいりますし、うまくなる過程を見守る忍耐も必要。大人が自分でしたほうがよっぽど早くてラクです。

 しかし、こうしたプロセスを経ていくと、子どもたちとの関係はぐっと近くなります。つい数日前までは知らなかった大人に、普段の学校のことや考えていること、悩んでいることなどを話してくれるようにもなってきます。

 また、子ども同士のコミュニケーションも上手になります。声をかけあいながら活動するようになったり、相手が困っている時には手を貸したり、全体の状況を見て先回りして動いたり…。

 便利な世の中になり、こうした体験活動は、大人があえて「場」を用意しなければ、子どもたちは体験できない時代となっています。親も子どもも忙しい時代ですから、大人はついその手間を惜しんでしまいがちです。しかし「手間を省く」ことによって、コミュニケーションの機会が失われていくのは非常に残念に思えてなりません。暮らしの中には「体験」があふれています。「何か体験活動をさせなければ!」ではなく、暮らしの作業1つ1つを子どもと一緒にしてみてください。それだけでも大人と子どもの関係を深める貴重な時間が増えるように思います。