「不登校についての一提言」~不登校児童生徒の支援活動から見えたもの~第2回-なぜ不登校に-

平成23年2月9日

 不登校と言えば、それは親の甘やかし、わがまま、いじめ、低学力、情緒不安定などと先入観を持って一元的に決めてかかろうとする風潮があるように思えます。 
 不登校の原因について、文部科学省や多くの研究者が発表した資料等にも掲載されていますが、今回は、10年間にわたるオアシス活動の中から感じ取られた事象を、例として報告させていただきます。

※オアシスでは反社会的行動をとる生徒は受け入れていませんので、そのタイプについては報告できません。また、事例は特定の生徒を取り上げたものではありません。

1 挫折型
 これは、その生徒のキャパシティーを超えたプレッシャーのために、多くのことを抱え込んでしまって、突如自信を喪失し、学校に行けなくなるというタイプです。
 学校の学業成績は優れ、部活動や生徒会活動でも活躍し、学級でも先生方や級友からも信頼されて、いわゆるよい子、優等生といわれていた生徒が、あるとき急に学校へ行けなくなるという場合です。
<例1>
 小学校時ではテスト等で良い点数をとり、体格もよく、利発ないわゆるよい子でした。居住地の中学校が荒れていたこともあって、ある私立中学校に進学しました。電車による通学時間がかかるので、学校の寮に入りました。ある時、校内テストで教師が期待する点数がとれないことで、指導を受けました。加えて親友と思っていたクラスメイトとの交流もうまくいかず、入学以来、一生懸命我慢し頑張ってきましたが、中学校生活が急に重荷としてのしかかり、自信を失い、人間不信を抱いたまま退学することになってしまいました。

<例2>
 厳格な父親と教育熱心の母親の期待を受けて、ある全寮制の進学校に進みました。2年生の半ばに、ある教科の点数が伸びず担当教師から指導を受けました。そのショックでついに学校に行けなくなりました。家に戻った生徒は地元の中学校に戻ることをひどく拒否し、家に引きこもりました。父親は、それは子どもの我が儘で、怠惰な行為だと責めたてました。ついには家庭内暴力までに至り、彼は人間不信を抱いたままゲームにのめり込んでいきました。

<例3>
 いわゆる優等生で、成績、生徒会活動への参加、学級の委員としてのお世話など、よく活動していました。ところが、ある時から級友の「いい子ぶって」というからかいに遭うようになりました。そこで彼女は自分をからかっているグループに入り、悪ぶった行動を取るようになりました。しかし、所詮そのような雰囲気の中で過ごせるわけはありません。結局そのグループから脱して、学校に行けなくなりました。親も教師も、よく分からないままにあの手この手の登校刺激を与え続けましたが、ついに彼女は部屋に籠城するまでになりました。

2 学校要因型
<例1:学校・学級の荒れ>
 授業中の私語、徘徊、悪口雑言、中には携帯電話やゲーム機など、いわゆる収拾がつかない学級や学校に耐えきれなくて、正義感が強く潔癖な子が学校不信に陥り、家に引きこもりました。

<例2:部活動>
 彼女は利発でよく気が利き、体も良く動き、友達思いの生徒でした。次期キャプテン候補として顧問教師から頼りにされていました。ところが、ある時から仲間の部員が「先生からかわいがられている」と彼女を疎外し非協力的になりました。悩んで顧問教師に相談しましたが、その教師の対応が火に油を注ぐ結果になり、彼女は学校に行けなくなりました。
そのほかに、レギュラー争い、楽器のパート争いなどの場合が多く見られます。

<例3:教師との関係>
 中学生の彼は、学級担任であり教科担任でもあり、その上部活動の顧問である教師に尊敬とあこがれの情を持っていました。ところがある時、教師の発言と行動に自分は嫌われていると感じ、教師不信に陥り、部活動を辞め、その教師の授業を受けなくなり、ついには学校に行かなくなりました。
 小学生の彼女は、軽い吃音がありました。ある日の国語の時間。「はきはきと声を出して読みなさい」と注意されました。その翌日から学校へ行けなくなりました。彼女はそのことをずっと心にしまい込み、笑顔さえ失いました。

<例4:授業不適応>
 体育の授業で、特に女子は水泳を、肥満な生徒は長距離走を嫌う傾向が見られます。自分が不得意なことに、教師は頑張れというエールを送っているのでしょうが、生徒には逆に辱め、叱責、からかいや冷やかしに受け取られる場合があります。
 また、大声や体罰におびえる生徒は、幼児期や低学年時に虐待を受けた経験を持っている場合があります。怒鳴り声、急き立てられる行動に恐怖感を覚え、学校に行けなくなる場合です。

3 家庭要因型
 親の仕事が大変な場合や、親が自分の楽しみを中心とした生活を送っている場合、親が心因性の病気を持っている場合などが考えられます。その結果、子どもに基本的な生活習慣が十分に定着できていません。

<例1:育児放棄>
 家事を放棄し子どものことにかまわない。家で食事を作らずに、コンビニやスーパーの出来合い中心。朝食を作らない場合も。室内の掃除ができていません。洗濯も十分にされていなく、替え着も不十分です。また、夜間外出が多く、カラオケ、飲酒、パチンコなどに熱中している場合もあります。

<例2:保護者の病気>
 家庭の中が落ち着かない。いつも緊張状態が漂い、家庭としての憩いの場が得られない場合。

<例3:母子未分離>
 母子分離ができていない。母親に依存し、母親と離れることに不安を感じる場合。

<例4:幼児虐待>
 幼児期に虐待を受けていて、その影響が心の中に残り、対人恐怖・大人不信に陥っている場合。

<例5:家庭不和>
 家庭内で夫婦間、舅と嫁間等の不和、離婚が絡む夫婦間のトラブルによる情緒不安定な場合。

4 いじめ被害型
 学級の友達から仲間はずしや無視、悪言の流布、からかい、暴力、恐喝などで教室に居づらい雰囲気に追い込まれている場合。
 このパターンは多くの事例があって、例示するには多くのスペースを要しますが、最近は直接的ないじめは減少傾向にあります。しかし、携帯によるトラブルが非常に多くなっています。ただ、まじめな生徒、リーダー的な生徒を攻撃して挫折させることは減らないようです。

5 学習不振・遅進型
 学校の授業について行けなく、他の生徒から疎外され学校が楽しくなく、むしろ苦痛の場になっている場合です。

<例1>
 小学校の担任によれば、彼女はおとなしい児童であったそうです。兄弟は勉強もできるし行動も活発でしたが、この児童は兄弟と違って、全ての面で劣っていました。母親は、この子の怠けだと思い、ひどく注意したり、色々な塾に通わせたりしました。いつも控えめでおどおどしている様子なので、検査を受けることを勧めました。その結果、母親の育児方針が全く違っていたと指導を受けました。その後、彼女に明るさ、伸びやかさが見られるようになりました。

6 病的要因型
<例1:躁鬱(そううつ)>
 あるとき訳なくふさぎ込んだり、またあるときはハイテンションになったりで、集団に適応できなくなる。他方、学級が生徒の症状を理解できず、周囲から疎外され教室に居場所をなくしてしまいます。

<例2:起立性貧血>
 朝、貧血のため早く起きることができない。そのために遅刻する。それを教師や生徒から「早く来なさい」「怠け者」などと言われ学級に入れなくなる。鼻炎や喘息の場合も、音が人に迷惑になる、また、午後から眠気が襲うなどで、授業中に注意をされたり白い目で見られたりする。

<例3:その他の病気>
 アトピー皮膚炎などの病気によって。

※以上、オアシス活動の中から、不登校になると思われる要因を掲げて見ました。でも、実際に不登校になるには、一つだけの要因ではなくて、いくつかの要因が潜んでいて、それが何かの出来事をきっかけにして表出するのだと考えられます。

次回は、あげられる要因に対してどのように対応したらよいのかを、提起したいと計画しています。

 

 

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