「不登校についての一提言」~不登校児童生徒の支援活動から見えたもの~

平成23年3月9日

 「この子がなぜ不登校に?」と保護者の方は言われます。教師さえも「なぜあの生徒が?」と不審に思われる場合も少なくありません。前回は不登校になったと思われる原因について、おおまかに述べさせていただきました。今回は「不登校と家庭」という視点で述べさせていただきます。

1 挫折型の場合
 子どもさんが頑張りすぎてはいませんか。また、頑張りさせ過ぎてはいませんか。にんじんをぶら下げて馬を走らせるのとは違いますから、子どもさんの状況を丁寧に感じ取ってあげてください。このタイプの子どもさんの多くは素直で優しい子ですから、周囲の人の言うことによく耳を傾けます。また、周囲の不十分さは自分のせいではないかと考え、自分を責めます。責任感が強いので一生懸命取り組みます。
 でも、人は、個人差はありますが、それぞれに受容量(キャパシティー)があります。それを越えたときにぽっきりと折れてしまいます。この型は中学校2・3年生で突然起こる場合がほとんどです。

 事前に:子どもさんとの何気ない会話を普段から交わし、表情や会話の内容に留意する必要があります。疲れていそうな時は、「もう少しだから頑張ったら」ではなく「少し休んだら」とか、保護者からの注文(期待、願い)を少しダウンさせてあげてください。 当然の事ながら親をはじめ家族の方の共通理解に基づいたものでなければなりません。

 事後に:「以前はこうだった」「こんな子ではなかった」と悔やむのではなく、また、子どもさんの怠けとか我がまま等と考えないでください。子どもさん自身が自分のことを十分知っています。家族が十分に理解したうえで、子どもさんの今までの状態をフォーマットしてください。一度白紙に戻して、子どもさんの固まった心を解かしてください。自信を回復し、自己存在感、有用感を育ててください。そのためには私たちは根気よく「ほめる」「認める」「待つ」ことを大切にしています。

2 学校原因型の場合
(1)学校や学級が荒れていて、その中に自分が適応できない場合
(2)部活動のなかでのトラブルの場合
(3)教師との関係が切れた場合
(4)特定の授業に適応できない場合
前回その例の一部を掲載いたしました。今回はそれによる不登校の兆候と回復について述べさせていただきます。

(1)学校や学級が荒れていて、その中に自分が適応できない場合
 兆候:学校に行くのを渋り、腹痛や頭痛を理由に休みがちになります。それ以外のことは話しません。保護者も時々の休みですから不登校の兆しとは気が付きません。
 対策:普段から子どもさんとの関わり合いを大切にし、子どもさんの表情や体調の変化に気を配ることが何よりです。休みがちになったら、学校に素早く連絡をして、学級での子どもさんの状況を尋ねてください。

※この時点で不登校の入り口に立っています。特に友達関係、昼休みなどを一人過ごしている時が多くはないか、学級や学校の雰囲気はどうなのか尋ねてください。特に担任教師と子どもさんとの関わりを深めるようにしてください。
※でも、これは子どもさんが担任を嫌っていないことが前提です。子ども達は、学校でいやなことがあったら担任に期待しますが、それに応えてもらえない時は極端に担任を拒否し、教師に全ての原因があると考えるようになります。

(2)部活動のなかでのトラブルの場合
 兆候:今まで毎日参加していた部活動を休みがちになります。次に「勉強したいから部活動をやめたい」と漏らすようになります。それを聞いた親は「子どもが勉強に打ち込むのなら」と思い、退部を認めます。でも、多くの場合、部活動の中に自分の存在を感じないようになっているのであって、本気で勉強に向かっていくかというと、それは3日坊主に終わり、やがて学校に行けなくなります。
 対策:素早く部活動の指導教師と話すことが大切です。でも、先生が生徒の実情をよく把握していない場合は、親の方から色々問いかけてみましょう。部活動をやめて自由気ままな生活を送りたいと子どもさんが思っている場合もあります。

(3)教師との関係が切れた場合
 兆候:教師から裏切られた。無視され見捨てられた。差別されたと子どもさんが感じた時、突然学校に行けなくなります。兆候を示さず、突然の場合が多いようです。これは小学校3・4年生から見られます。
 対策:子どもさんの不登校の原因が教師にあるのではないかと、学校や教師本人にはとても話にくいことです。そのために、子どもさんに非があるのではないかとか、我慢しなさい等と言って子どもさんを納得させようとします。すると、子どもさんは保護者にまでも不信感を抱くようになります。保護者は勇気を持って本当はどうなのか確かめ、少なくとも早期に大人として、教師・保護者として子どもを中心にした適切な手立てを講じてください。

(4)特定の授業に適応できない場合
 兆候:特定の教科、あるいは教科全体の成績がふるわなかったり、授業を受けるのを拒否したりします。学校を休む曜日が一定になる場合もあります。
 対策:教科担当教師が好きならばその教科も好きになると言うことはよくある現象です。逆に教師が嫌いならば教科もきらいになるようです。これに対する特効薬を見いだすことができません。不得意な教科、嫌がる教科、また、なぜ全教科に学習の効果が見られないのか、それが全て子どもさんの我がままや怠けと決めつける前に、担任や教科担任に相談しましょう。場合によっては、学習障がいであることも考えられますので、早期に専門的な診断を受けることも大切です。とにかく、いずれにしても子どもさんを中心に据え、多方面から支援する手立てを講じましょう。

3 家庭原因型の場合
 家庭自身に問題がある場合は、学校や周りの大人の支援が必要になってきます。

(1)育児放棄傾向にある場合
 兆候:親の都合や身勝手で起床、食事、就寝など子どもの生活リズムが不規則になり、生徒の生活リズムが整わず、そのことが影響して不登校になったと思われる場合があります。
 対策:これらはまさに家庭の役割を損ねているのですから、学校が生徒の変容に気づいたら、関係者で親と話し込んで欲しいと思います。でも、これは家庭の中のことですから、なかなか取り組むのに困難さがあります。

(2)保護者に病理的な問題がある場合
 兆候:保護者に躁鬱(そううつ)傾向、情緒不安定な方がいる場合、家庭の中に緊張状態が漂います。その影響を受けてか、子どもさんも精神的な不安定を起こします。そのことで友だち関係が壊れ不登校に陥る場合があります。
 対策:このタイプも、家庭の中の、しかも病理的な事柄ですから、対策は難しく時間もかかります。保護者本人の自覚と家族の理解が必要です。

(3)母子未分離型
 兆候:母親は子どもを溺愛し、子どもも母親と離れることを不安がります。子どもさんはなにか不安や困難に出会えば母親と近い距離に居場所を求めるので、不登校になりやすくなります。
 対策:この傾向は小学校中学年から顕著になりますから、その様子がみられたら、母子関係のあり方について、保護者懇談の折りにでも学校と話し込むといいと思います。

(4)幼児期の虐待
 兆候:幼児期に虐待を受けているため、大人不信、男性不信または女性不信になっています。従って男性教師あるいは女性教師に馴染めません。また、大声の指示や号令、叱責に拒否反応をしめします。そのために消極的になり、不登校へと繫がります。
 対策:子どもの実態に合った女性(男性)教師に担当してもらうなどして、誰からどのような虐待を受けたのか、本人に気づかれないよう慎重に情報を得なければなりません。

(5)家庭不和
 兆候:親や大人に対して不信感を持ち、問題行動に走るか、情緒不安定・引きこもりに陥ります。夫婦関係、離婚や保護者の死亡などが子どもさんに精神的な不安定感を宿します。
 対策:教師をはじめ誰かが母親や父親の代行として、話の聞き役、精神的支え役、規範の指示役になることが望まれます。

4 いじめ被害型の場合
 兆候:登校を渋り、元気がなくなります。時として親に反抗的になり、また弟や妹をいじめるような態度をとるようになります。また、いじめを避けるために力のある友達に近づいたりします。
 対策:家の中で普段から子どもさんの行動や表情の変化に気づく関係・雰囲気を作っておきましょう。親がふと何か気になった時は、必ず子どもさんに変化が生じている時です。子どもさんは小学校上学年にもなると、自分がいじめられていることを親や教師に隠し、話すことを嫌がります。気になる様子が見られたら、学校や塾、所属している運動・文化クラブの指導者等に相談しましょう。

5 病気や発達障がいを要因とする場合
 兆候:発達障がい、起立性貧血、アトピー性皮膚炎、吃音など
 対策:起立性貧血、アトピー性皮膚炎、吃音は態度や行動に表れやすいので、周囲に理解があれば、集団の中で活動できます。しかし、発達障がいには種々な様態があり、子どもの行動が何によるものか、専門的に慎重に診察・検査を受けることが大切です。しかし、この検査を受けることに強い拒否感を持つ保護者の方が多いことがネックです。保護者自身が、病気や発達障がいについて正しい知識を得ることが何よりも必要です。

<まとめ>
それぞれのご家庭の様子について、次のような視点でふりかえっていただけたらと思います。
●普段から家庭の機能が発揮され、教育の場であると同時に憩いの場となっているでしょうか。
●家族の日常の生活リズムは如何でしょうか。
●子どもさんが不登校になっていること、その対応について家族の共通理解がなされ、支援態勢ができているでしょうか。
●子どもを信じ、家族の一員としての地位が保たれているでしょうか。
●学校や関係機関、団体等との連携がとれているでしょうか。
●人間だから病気をするし怪我もする。体が傷つくと同じように心も傷つくということ を理解されているでしょうか。
●不登校生は問題児ではない。大半が、気持ちが優しい生徒だと分かっていただいている でしょうか。

※次回は学校との関係について掲載の予定です。

 

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