第2回 子どもたちのさまざまな語り

平成18年6月1日

 玄関のドアが開いたかと思うと、ドサッと鞄を投げ出す音が聞こえます。「今日は何か嫌なことがあったのかな?」。案の定、「お帰り」の声かけにもはかばかしく返事をしないまま、彼は階段を駆け上がって行きました。長男が中学2年生の頃、台所で夕飯の支度をしながらその日の彼の機嫌を鞄を投げ出す音で判断していたことを思い出します。

 Aさんは、微熱が続いている中学1のお子さんのことを心配して相談に見えました。かかりつけ医に受診しても特に異常は発見されないままもう3週間にもなるとのこと。「それ以外は特に変わったことはないのだけれど」とAさんは首をかしげておられます。

 中3のB君は毎晩のように部活仲間にちょっかいをかけられることを悔やむとのこと。顧問の先生への相談を勧めても断固として拒否するばかり、それなら自分で解決できるかというとそれも難しいらしく、同じ話を毎日のように聞かされるお母様自身、どう対応してよいか困惑しておられました。

 子どもたちの世界も楽しいことばかりではありません。学校では友達との間で、先生との間で、勉強のことで、部活のことで、さまざまな壁にぶつかり、悩みを抱えます。自分自身の能力に自信をなくしたり、自分が人と違っているのではないかと気になったりすることもあります。子どもはさまざまな語りを通してこのような悩みや苦しみを表現してきます。B君のように文字通りの「言葉」で語ってくれると、少なくとも何を体験しているのかは見えるのですが、中2の頃の長男のように「鞄を投げ出すという行動」で語ったり、Aさんのお子さんのように「(身体が」微熱を出す」という形で語られると、子どもの体験を理解すること自体が難しくなります。

 さまざまな形で表現される子どもの語りを理解するには、大人自身が安定して子どもを受け止めるゆとりを持つ必要があります。さらにパワーアップするためのこころの仕組みについての多少の知識と話の聴き方についてのちょっとした技については次回に譲ります。

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