村上 千幸 先生

「つかむ」を育てる~かしこい体と器用な手を育てるために

平成27年10月16日

 「『つかむ』を育てる」と言われてピンと来られる方は少ないと思います。
泥団子を丸めたり、木登りや雑巾絞りなど様々な「つかむ力」は、かしこい体と器用な手に深い関係があります。

 最近、小学校低学年では2B~4Bの鉛筆を持ってくるように指示されるそうです。Bの数字が多いほうが柔らかく濃くなりますので、強く押し付け
なくとも字が書けるということになります。子どもが持つ鉛筆の筆圧が弱くなり、字が薄く見えにくくなっているからだそうです。

 筆者が子どものころ(50年前)はHBの鉛筆が定番で、2B鉛筆はスケッチなどをするときなどに使う特別な鉛筆でした。
また、各種の調査では今の子どもたちは不器用になっており、

 箸が上手に持てない
 鉛筆が削れない
 果物の皮がむけない
 紐が結べない 

などと報告されています。
 生活スタイルが変わり、削ったり、むいたり、結んだりする必要性が少なくなり、道具が便利になり使う経験や機会が減ったということがある
かもしれません。

 一般に、器用さを示すのは親指、人差し指、中指の3本を使っての「つまむ」作業ですが、実は“パワーグリップ”と言われる薬指と小指の
力強い「つまむ」力に支えられる能力なのです。
 子どもたちは薬指と小指の力を使う遊びをしているでしょうか。

 体は使わなければ強くならないように、薬指や小指も使わなければ強くなりません。遊びの中で様々な「つかむ力」を使う遊びや料理、
掃除、力仕事の手伝いなどをする中で、力強く器用な手を育て、「かしこい体」を育てることになるのです。

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「毎日、朝、出る」を育てる

平成27年9月19日

 あなたのお子様は毎日、朝うんちが出ていますか?全国調査によると、毎日うんちが出る子どもは2歳児で47.3%、5歳児は39.1%という割合でした。朝出るという子どもは全体でも2割強くらいしかいません。どう思いますか?

 毎日出ないから“便秘”とは言えません。週のうちに3~5日排便があり、子ども自身に腹痛や痛み、違和感がなければ特に問題はないとも言われています。しかし、毎日、朝から出るリズムは育てなければ育ちません。

 保育の世界では「おしっことうんちは子どもが自分自身でできる、初めての親へのプレゼントである。」と言われています。おしっこ・うんちを汚いものとして避けるのではなく、出ることの大切さ、気持ちのよさをあなたの喜びとして子どもに伝えてください。そうすると「自分がうんちをするとお母さんが喜んでくれる。」ことがわかり、また立派なものを出してあげようと子どもも頑張るのです。毎日朝から出ることの喜びを共感していきましょう。そして、朝から少しだけ余裕をもって、朝出かける前に「ゆっくりいいんだよ。」と便所に座る時間を待ってあげてください。そうすると、毎日朝から出る子どもになりますよ。

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「なぜ朝の排便なのか」

 保護者の方には「排便は昼や夜じゃダメなの」、「1日に1回出ればいいんじゃないの?」と思われる方がおられるかもしれません。ここで大事なことは、朝の排便という結果も大事ですが、朝から排便があるという習慣化した規則正しい生活が大切だということなのです。

●なぜ毎日なのか
 排便回数は生後1 週の新生児では,1 日平均4 回ありますが、2 歳までに1 日1~2 回に減少し,3~4 歳で排便回数は1 日1 回程度となります。年齢に伴い排便回数が減少するのは,腸管通過時間や大腸運動の変化に関連するものです。腸管通過時間の平均は,1~3 か月で8.5 時間,4~24 か月で16 時間,3~13 歳で26 時間と言われています。それで一日に1回排便する必要があります。

●便秘は悪い習慣です
 幼児期の便は、離乳に伴い固形化してきます。排便習慣が未確立な乳幼児期では、毎日排便がないことにより過度の便塊貯留(便塞栓)が便意を鈍化させ、便は長時間大腸に停滞しさらに硬く・太くなります。硬い便や太い便を排出したときの痛みや不適切なトイレットトレーニングなどは、排便を我慢した結果の嫌な体験として記憶されます。すると小児は排便を苦痛なものとしてとらえてしまい、次第に排便を避けるようになります。(排便回避)このため、便秘の悪循環が生じてしまうことになります。

●自然と朝からでる習慣を育てる
 それでは「規則的に排便があればそれでもいいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、朝から排便がないと身体の中に便を抱えたままの不快な状態で活動するということになります。また、便意を催した時にいつでも自由に便所に行く事ができるならば問題はないかもしれませんが、日中の活動の時間にいつでもどこでもという訳にはいきません。特に学校などではできない子どもが増えています。そうすると排便の機を逃してしまい不規則になってしまいます。

 毎日朝から排便するというのは生活の習慣です。習慣は育てなければ育ちませんので、3歳ぐらいまでに育ててあげたいものです。正常な排便は、姿勢やいきみ方、消化管生理機能や大脳機能、肛門括約筋機能、食事内容など、さまざまな要素が関連し遂行される活動です。排便の認識は下部結腸や直腸に便塊が貯留する刺激を、結腸神経系を介した高位中枢によってなされ、至適な場時間であれば、高位中枢が腸管と随意筋を統合的に制御し排便が行われます。(排便の脳腸相関)

 人の腸は朝食をとることにより活発に運動を始めます。そこで適度な運動など規則正しい生活のなかで、朝食を摂る、ゆったりとした気持ちでトイレに入る時間を確保することにより、自ずと朝食後に排便することになります。

 便秘になると将来の健康に大きなツケを残すことにもなりかねません。子どもの頃からの正しい排便習慣をもたらす規則正しい生活習慣がとても大切だということになります。

(参考資料*小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン:日本小児栄養消化器肝臓学会 日本小児消化管機能研究会編集)       

「おいしい」を育てる!

 平成27年8月18日

 美味しいものを食べると幸せな気持ちになります。
 
 「これは美味しいね」と言われると嬉しくなります。

 しかし、「おいしい」という感じ方は、子どもに対して教えたりしないと育たないというと、「えっ?」、「美味しいものは自然と美味しいと感じるもので、育てる必要なんてあるの?」と思われるかもしれません。そうです、「おいしい」と感じる力は育てなければ育たないのです。

 「おいしい」といってもいろいろなものがあります。人によっても違い、季節や文化によっても異なります。舌で感じる旨み、歯で感じる美味しい食感、耳で感じる美味しい音、鼻で感じる美味しいにおい、目で感じる美味しい見た目、そして心で感じるおふくろの味・故郷の味、思い出の味など様々な美味しさがあります。感じ方は人によって違いますので、これが美味しいということを言葉にして誰かから学ばなければならないのです。

 子どもは大切で大好きな人から「これは美味しいね」と言われて初めて、「これが美味しいということか」と覚えるのです。ですから、一緒に食べることがとても大切になります。個食・孤食が多くなっていますが、一人で食べても美味しいを学ぶことも共感することもできません。同じものを同じ食卓で食べる経験が大切だということを理解してもらえると思います。

 美味しいと感じるためには楽しい食卓の雰囲気も大切です。楽しい話題と「おいしい」という言葉がたくさん出てくる食事を楽しみましょう。

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汗をかく力を育てる

平成27年7月16日

 「えっ!汗をかくのに力がいるの?」と思われる方がいるかもしれません。そうです。汗をかく能力は自然に育つのではなく、育てなければ育たないのです。正確に言うならば、気候風土に適した汗のかき方を育てなければなりません。

 汗のおもな働きは、体温の調節です。人は、体温をほぼ一定に保つために、暑いときには汗をかいて熱を逃がしますが、汗をかかずに体内に熱をためこんでしまうと熱中症になります。その能力は2歳半から3歳位までに決まるといわれています。しかし、快適な環境ばかりで過ごしていると汗をかく必要がなくなり、汗をかく力が育たないという事になります。

 「汗をかくと気持ちが悪い」、「汗びっしょりはかわいそう」、「気持ちよく暮らしてもらいたい」と考える方もおられます。しかし、夏場に空調が効いた部屋で過ごす時間が多いと汗をかく必要がありませんので汗腺の機能が低下し、体温調節がうまくいかなくなることになります。そして、身体の中に熱がこもりやすくなり、夏バテする原因になったりします。

 九州で育つ子ども達には暑さに負けない、むしろ暑さを楽しむくらいの暮らし方をしてほしいものです。夏こそ、水分を十分に取りながら、気持ちよく汗をかき、その後さっぱりとシャワーや沐浴(もくよく)等で気持ち良いと感じることのできる力と体を育てましょう。

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