徳永 明子 先生

「声」が育てる「ことば」と「こころ」 (4)「ことば」と「こころ」の深い関係

平成26年10月15日

 私は近くの公民館で、毎月乳幼児とお母さんを対象にした文庫「わらべうたとえほんの会」を開いています。0歳の赤ちゃんの日と1~3歳の未就園児の日の2回に分け、ボランティア・スタッフと一緒に親子との会話を楽しみながら、わらべうたで遊んだり、絵本の読み聞かせや貸し出しをしたりしています。そこで出会う子どもたちの毎月の成長ぶりには、いつも目を見張らされます。 
  
 9月の文庫の日、夏休みをはさんで2か月ぶりに出会ったYくん(2歳)は、私の顔を見るなり、いつもの「こんにちは」ではなく、「ぼく、おにいちゃん! ぼく、大きくなった!」と大きな声で言いました。赤ちゃんのときから絵本が大好きだったYくんは、2歳になって急に会話力が上達してきていましたが、この表現には私もびっくりしました。

 思うにYくんのお母さんは、この秋に2番目のお子さんの出産をひかえ、やがてお兄ちゃんになるYくんに、この夏はさまざまな言葉かけをしてこられたのでしょう。そのお母さんの心遣いと言葉がYくんにしっかり伝わって、自分の成長を周囲に伝える言葉になったのでしょう。幼児の言葉の成長とそれに伴う心の成長の様子を、あらためて感じさせられた出来事でした。

 「ことば」と「こころ」は、深いところでつながっています。子どもの言葉の世界は、温かい肉声で語りかけられ、わらべうたや絵本を共に楽しむ中で大きく成長していきますが、言葉と一緒に心の世界も成長している ということを、忘れないようにしたいものです。

「声」が育てる「ことば」と「こころ」 (3)わらべうたと絵本の楽しさ

平成26年9月17日

 赤ちゃんたちは言葉を話すことはできませんが、人の声を聞くのは大好きです。

 8月の第2回でも述べましたが、人の声で語りかけられているうちにことばを聞く喜びを知り、さらにことばの世界の楽しさを知っていくのです。その世界への最初の入り口が、わらべうた遊びと絵本の読み聞かせだといえるでしょう。

 わらべうたは、「いないいない ばぁ」や「ちょちちょち あわわ」などのように、昔から口伝えで子どもたちに親しまれてきた、日本固有の「あやしうた」(あそびうた)です。メロディーが単純でリズムにのりやすいわらべうたは、小さい子どもたちを楽しませるのにぴったりなので、最近は図書館のおはなし会や公民館の子育てサロンなどでも、わらべうたを積極的に取り入れるようになりました。

 また絵本も、絵もことばも美しい赤ちゃん絵本がたくさん出ていて、ブックスタート事業などを通して読み聞かせが奨励されています。絵本を読んであげると、赤ちゃんたちは画面にじっと見入り、ときには笑顔を見せたり声を上げたりして大人たちをびっくりさせます。小さい子どもにとって、人の声を通して美しい絵を見たり、ことばの響きを楽しんだりすることは、とても新鮮で嬉しいことなのです。

 どうかお子さんと一緒にわらべうたや絵本の世界をたっぷり楽しんでください。
 そのことが、お子さんのことばの世界を豊かにし、心を育てることにつながると思います。

「声」が育てる「ことば」と「こころ」 (2)名前を呼んで、話しかけてあげましょう

平成26年8月18日

 赤ちゃんが生まれたとき、お父さんやお母さんは、その子の幸せを願い、いい名前をつけてあげようと一生懸命考えます。赤ちゃんたちの名前を聞くと、文字の使い方や音の響きに、名前をつけた人の愛情や思いを感じることができます。

 名前はその人に一生ついて回るものですから、大切に考えてつけるのは当然だと思いますが、両親をはじめ周囲の人々は、心を込めてつけた赤ちゃんの名前を、どのくらい声に出して呼んであげているでしょうか?おむつや授乳など、目に見える世話の方に気をとられて、あまり名前を呼んではいないというのが実情ではないでしょうか?

 どうぞ毎日、何度でも、愛情こめてお子さんの名前を呼んであげてください。そして、いろんなことを話しかけてあげてください。

 赤ちゃんや幼い子たちは、自分でおしゃべりすることはできませんが、自分の名を呼ばれ、話しかけられるのは大好きです。呼びかけてくれた人の声から、子どもは自分に対する愛情を感じとり、その喜びと安心感のなかで、周囲の環境に親しみ、言葉も心も成長していくのです。

 テレビやスマホの画面や音声は子どもたちをひきつけますが、それはあくまでも機械による一方的なものであり、人の声のように、子どもの心に喜びを感じさせるものではありません。
 子どもたちが喜びと安心をもっていきいきと成長していけるよう、繰り返し名前を呼び、話しかけてあげたいものですね。

「声」が育てる「ことば」と「こころ」 (1)人の声の大切さ

平成26年7月17日

 生まれてから小学校に入学するまでの乳幼児期は、いろいろな意味で一生の基礎をつくる大切な時期です。この世に生まれ出た赤ちゃんが、心も体も健やかに成長していくためには、お母さん、お父さんはもちろんのこと、周囲の大人たちの愛情ある心配りが必要です。

 しっかりした身体に豊かな感性と思考力を備えた子どもを育てるためには、何が必要なのでしょうか?この講座では、人間として生きていくために必要不可欠な「言葉」と「心」を育て、子どもたちの「生きる力」を養うには何が大切なのかを考えてみたいと思います。

 私たちが日常生活を営むために必要なものとしてすぐ頭に浮かぶのは「衣」・「食」・「住」の三要素ですが、それとともに忘れてはならないのが「言葉」です。言葉なしに私たちの社会生活は成り立ちません。人間として生きていくためには、体力と同時に言葉の力を身につける必要があるのです。そして豊かな言葉の世界を通して、いきいきとした柔軟な心が育っていくのだと言えるでしょう。

 身体の成長に上質な栄養が必要なように、言葉と心の成長にとっても忘れてはならない大切な要素があります。それは温かい心のこもった「人の声(肉声)」による言葉かけです。テレビやスマホなどの機械を通した言葉は「音声」であって、情報は伝えても子どもたちの心に届く言葉にはならないのです。さまざまな機会を通して、子どもたちに心のこもった声と言葉をかけてあげましょう。そこには強い心の「絆」が生まれると思います。