2 SNSの問題を知る

令和元年5月23日

 2017年、SNSで自殺願望を書き込んだ女性など9人が誘い出されて殺害された事件がありました。その容疑者とSNSで連絡を取り合ったことのある女性が毎日新聞(2017年11月6日)の取材を受けて、次のように語っています。
 「ツイッターに死にたい、と書くと、『いいね』がたくさん来る」「生きてるって言うよりも、死にたいって言った方がたくさん反応があった。それがうれしかった」と。これは一体どういうことでしょうか。他人からの反応がほしくて、つまり他人にかまってもらいたくて、本当は死にたくないのに「死にたい」とSNSに書き込んでいたということでしょうか。

 SNSの長時間使用と、寂しがり屋で依存心が強いという特徴には、相関があることが知られています。相関関係ですから、SNSを長時間使うと寂しがり屋になるのか、寂しがり屋がSNSにはまるのかはわかりませんが、私は両方ともあると考えています。寂しがり屋はSNSにはまりやすく、SNSを使うことで寂しがり屋であり続ける。あるいは、ますます寂しがり屋になるということです。

 心理学においても社会学においても倫理学においても、人として目指すべき成長の方向性は「自律」です。寂しがり屋で依存心が強いことは、自律とは反対を向いているので好ましいことではありません。これは、未熟な子ども(人)の特徴でもあります。つまり、SNSは、人としての好ましい成長を妨げているということができます。

 コンピュータを使っている人の脳は、広範囲に活発に働いていることが知られていますが、それは注意散漫で騒々しい脳だという指摘があります(カー 2010)。じっくりと読書しているときの脳は、このように騒々しく働いてはおらず、もっと落ち着いています。
 ですから、パソコンやスマホを長時間使用していると、注意散漫で騒々しい脳になってしまい、深い読み・深い思考ができなくなるのではないかと危惧されます。最近の大学生は読書をしないことがよく話題になりますが、読まないのではなく、読めなくなっているとの指摘もあります。
 また、他人の心理的苦痛に共感するには、深い読み・深い思考と同じ能力が必要なので、注意散漫で騒々しい脳になってしまった人は、他人の精神的な痛みを感じにくくなることも考えられます。

 最後に、仙台市が小中学生約7万人を対象にして実施した調査研究を紹介します(川島 2018、横田 2016)。文部科学省が実施した調査で、スマホの利用時間が長い子どもほど学習成績が低いというものがあります。この調査結果を見た多くの人たちは、スマホの利用時間が長いと、学習時間や睡眠時間が短くなるから、学習成績が低くなるのは当然だと考えます。しかし、仙台市の調査研究では、家庭での学習時間の長短、睡眠時間の長短で分けて集計していて、学習時間や睡眠時間が同じ子どもたちで比較しています。その結果は、どちらの場合も、スマホ(特にSNSは顕著)の利用時間が長いほど学習成績が低くなっています。
 また、年度をまたいだスマホ使用の有無と学習成績(偏差値)の関係も調べています。その結果は、使っていないか使うのを途中でやめた子どもは成績が上がっていて、使い続けているか途中から使い始めた子どもは成績が下がっています。
 これらのことから、スマホ使用(特にSNS使用)そのものが、学習成績にネガティブに作用していると考えられます。

 SNSの問題と言えば、ネットいじめ、誹謗中傷、不適切投稿、炎上、出会い系サイト、個人情報漏えい、デマ情報、有害情報、ネット詐欺などをあげて説明されることが多いのですが、私は敢えてこれらに触れませんでした。これは、前回紹介したマクルーハンによる「メディアはメッセージ」の主張に合った考え方です。SNSというメディアが伝える情報によって起きる問題よりも、メディアそのものが人に与える影響(問題)の方がはるかに大きいのです。


ニコラス・カー:『ネット・バカ』、篠儀直子訳、青土社、2010
川島隆太:『スマホが学力を破壊する』、集英社新書、2018
横田晋務:『2時間の学習効果が消える! やってはいけない脳の習慣』、青春新書、2016
 

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