岩崎 昌子 先生

第4回 和食の時代にクローン病はなかった

平成28年8月1日

 クローン病は、潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)とともに炎症性腸疾患(えんしょうせいちょうしっかん)といわれる治りにくい病気で、原因不明の消化管疾患で、10~20歳代の若者に多い病気です。統計によると、日本全国には潰瘍性大腸炎が18万人、クローン病が4万位いると言われています。症状は下痢、血便、腹痛等の症状で来院されます。

 さて、このような病気が多くなってきた背景には、欧米化した食生活があります。昭和20年(1945年)代以前の日本人の食生活は脂質の摂取が少なく食物繊維を多く摂取していました。ところが、1960年代頃からの高度経済成長期に、食生活の欧米化が進行し、ファストフードやジャンクフード、肉類や乳製品による動物性脂肪の摂取で、脂質量の摂取が急増しました。逆に食品の精製度が高まり、白いご飯や白いパン、白砂糖を摂ることが普通となり、野菜不足も相まって食物繊維の不足が問題となっています。「和食の時代にクローン病はなかった」というのは、低脂質で食物繊維を十分にとっていた時代の事です。炎症性腸疾患は悪くなったり、よくなったりを繰り返す難病ですが、食事療法は脂質を控えた和食が望ましいと言えます。

 ところで、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、バランス良い和食を摂れている日本人が現在の日本にどれだけいるでしょうか?昔から「過ぎたるは及ばざるが如し」と言われますが、健康に良いというものであっても摂りすぎは良くありません。不足も摂りすぎも病気を引き起こす危険性があります。

 「食」という文字は人を良くすると書きますが、毎日の習慣として食べる食事が人を良くも悪くもすると言えます。決して食事だけが原因で病気にはなりませんが、生活習慣病をはじめとして食生活が起因する病気が多いのが日本の現状です。

 食事は命をつなぐ大切なものですから、意識して考えて食べることで病気を予防していただけたらと願っています。
シリーズ4回のご高覧ありがとうございました。

第3回 免疫を高める腸内環境 シンバイオティクス

平成28年7月1日

 シンバイオティクスという言葉は、聞きなれない言葉ですが、プロバイオティクス(善玉菌)、プレバイオティクス(善玉菌のエサとなるオリゴ糖や食物繊維)を組み合わせたものです。

 インフルエンザやノロウイルス感染は冬場に多い感染症ですが、かかる人とかからない人になにか違いがあるのでしょうか?高校受験や大学受験を控えた時期に、このような感染症にならないようにするためには日頃からの予防と対策が必要です。

 その対策の一つに免疫力をあげることがあります。腸には免疫をつかさどる免疫細胞が腸内細菌の60~70%あり、体内で最大の免疫器官です。腸内に住んでいるいろいろな細菌の集団を腸内フローラ(腸内細菌のお花畑)と呼んでいますが、腸内細菌叢※(ちょうないさいきんそう)によって良い環境と悪い環境になることが分かっています。腸内には100兆個以上、約3,000種類の細菌が住みついており、その重量はなんと1~2kgもあると言われています。

 免疫力をアップする腸内環境にするには、善玉菌(乳酸菌やビフィズス菌)を増やし、悪玉菌を減らしてよりよい腸内バランスを保つように、日頃からの食生活で実行していく必要があります。

 腸内環境を悪くする悪玉菌は、甘いお菓子や脂質の多いものが好物ですから摂りすぎないように注意し、食物繊維の多いもの(野菜、海草、きのこ、豆類など)は善玉菌の好物ですから不足しないように摂取しましょう。

 毎日の食習慣として、主食・主菜・副菜が揃った和食を中心とした食事を日頃からとることが大切です。ファストフードやお菓子を食事代わりにするなど偏った食事を続けることは腸内環境を悪くし、免疫力の低下をきたして様々な病気の引き金となります。食事は単に空腹を満たすためだけでなく、これから将来(20~30年後)の健康を維持することにつながることを意識して食べることが望まれます。

※腸内細菌叢・・・・・・・人間が母親の胎内にいるときは完全に無菌であるが、分娩と同時に産道や外界からの細菌の汚染を受け、まもなく腸内にたくさんの細菌が住み着くようになる。このような細菌を「腸内細菌」とよび、その集団を「腸内細菌叢」とよぶ。

 

第2回 若い女性に多い摂食障害 リフィーディング症候群に注意!

平成28年5月27日

私が担当する精神科の病棟には、常に2~3人の若年の摂食障害の患者さんが入院されています。ある時、病棟に行くと「この患者さんを見てください。この子は命の危険性があります。」と医師に言われ、病室に行くと色白で長身の女の子がベッドに横になっていました。彼女は17歳の高校生、一番みずみずしくはつらつとした時期なのに、ベッドに横たわった足は骨に皮がくっついているだけの極度のるい痩(※1)状態で、体重26㎏ BMI 8.8(※2)という今まで見たこともない高度の『痩せ』で歩くことも困難な状態でした。リフィーディング症候群を呈しており、すぐにに栄養治療しないと本当に生命に危険がありました。

そこで病院のチーム医療であるNST(栄養サポートチーム)が栄養治療を開始しました。リフィーディング症候群とは著しい栄養障害(飢餓状態)患者に栄養療法を急速・過剰に行った場合に発症する代謝性合併症であり、重症化すると死に至ることがあるので、NSTは少しずつチューブで栄養を入れていきました。彼女は11歳の時、友人にからかわれたことをきっかけに食事制限と下剤の濫用を開始し、今回、高度のるい痩、生命の危機があるという状態で入院となりました。栄養治療の結果、この子は無事に退院することができましたが、世界的に有名なポップスグループのヴォーカルだったカレン・カーペンターが1983年に摂食障害(拒食症)が原因で亡くなったことをご記憶されている方もいらっしゃるでしょう。

「思春期やせ病」ともいわれるこの病気は、自ら食事を拒み、やせ願望のために拒食するもので、その逆に大食と嘔吐を繰り返す過食症とあわせて「摂食障害」とよばれています。治療にはカウンセリングを含めた行動療法と、正しい食事療法を本人が自覚し目標を持って取り組めるよう時間をかけて行います。精神的な要因が多い中、特に家族関係は重要な治療のポイントとなることから、日頃からの対話や過度な期待をかけるような言動には注意が必要です。

わが国では厚生労働省が健康日本21で“子どもと成人の肥満と若い女性の痩せを減少する”ことを目標に掲げています。飽食の時代、好きなものを好きなだけ食べて肥満になる人、女優体重を目指しすぎて痩せていても太っていると思い込み食べて吐いて痩せる人、様々な日本人がいますが健康的な適正体重はBMI 22といわれています。

※1 るい痩・・・「やせ」の状態が著しいこと
※2 Body Mass Index(体格指数)という肥満度をあらわす国際的な指標
BMI = 体重(kg)÷ 身長(m)2

第1回 早起き、早寝、朝ご飯 いただきま~す!

平成28年4月22日

  近年、日本は「24時間社会」と言われ、大人から子供まで人々の生活は夜型化し、就寝時刻が遅くなり、それに伴って睡眠時間も短縮しています。睡眠不足は集中力の低下を来し、イライラの原因にもなると言われています。“早寝、早起き、朝ご飯”というキャッチフレーズがありますが、朝起きて15~16時間後に眠たくなるという生体リズムからすると早起きすることが起点となり、おのずと早寝になり規則正しい生活に繋がります。

朝食の質が脳機能や脳の発達に多大な影響を与えることは東北大学の川島隆太先生らの研究でも明らかになっています。ぎりぎりまで寝ていて慌てて起床し、おにぎりをほおばりながら出かけていませんか? では、質のよい理想的な朝食とはどのようなものでしょうか。和食で言えば一汁二菜、洋食で言えばアメリカンブレックファストです。パンかごはんの主食、目玉焼きや焼き魚などの主菜、野菜サラダや野菜スープ、ほうれん草のおひたしなどの副菜、あとは牛乳やチーズなどの乳製品をとり、果物を加えれば完璧です。忙しい朝にこれだけ用意するのは大変と思われるかもしれませんが、主食(炭水化物)、主菜(たんぱく質)、副菜(ビタミン・ミネラル)を揃えて食べることを念頭に入れ、昨日の残り物や常備菜を活用すると、以外と簡単に栄養バランス食が完成します。質の良い朝食を食べることは高校・大学の合格率にも大きな影響が出るという報告もあります。

 ちょっと前の話になりますが、ラジオ番組のトークのなかで「給食費を払っているので“いただきます”は言わせないでください」という小学生の親御さんの発言が取り上げられていました。正しい「いただきます」の意味とは動植物の命を頂いて我々人間が生かされているということです。食べ物に感謝して今日も元気いっぱいの朝ご飯をいただきましょう!