薄 千里 先生

「子どもの心を育てる金融教育」 「お金についての考え」は、どのようにして培われていくのでしょうか?

令和4年3月29日

 私の授業を受講している大学生の皆さんに、これまでの自分自身とお金とのかかわりについて振り返り、考察を行っていただきました。学生の皆さんの振り返りから、「お金の教育」が子どもの心を育てる一面を確かに担っていることを実感したのでした。

 今回は、その振り返りの内容(一部)を紹介して、「お金の教育」について考えていきたいと思います。そして、ご家庭での「お金の教育」について、一つでも二つでもヒントを発見していただけたら大変嬉しく思います。

 「お金についての考え」は、どのようにして培われていくのでしょうか。学生の皆さんの振り返りからわかったことは、主に以下のようなことでした。 
(※「お金についての考え」は、「お金についての認識、価値観」も含めてとらえています。)

1「お金」の価値や使い方について、家庭・学校で様々な教育を受けてきていること

〔学生の皆さんの振り返りから〕     ※「2」以降も中は、「学生の皆さんの振り返りから」

〇 お金について、家庭・学校でどのような教育を受けてきましたか。

(1)家庭で   
 お金は労働の対価であること、大切さ、必要性、限りがあること
 よく考えて必要なものに使うこと、買ったものは使い切ること、貸し借りはしないこと
 貯金もすること、お金が貯まると好きなものや欲しいものが買えること

 (2)学校で
 お金のはたらき、計画的な使い方、金融や経済の仕組み、キャッシュレス決済 など
 家庭科・社会科・講演会などで、終業式などにおいて

※このような記述もありました。
 ・お稽古や部活が忙しく、お金を使う機会がほとんどなく、お金についての教育も受けていないし、自分から積極的に考えることもほとんどなかったように思います。
 ・中学生の時、部活の先生から「使っているもの一つ一つにお金がかかっている。しかもそれは自分のお金ではない」と言われて、ハッとしたことがありました。部活の費用は高かったので欲しいものがあっても今は我慢しようと思って部活に打ち込んでいました。


2「お金」について、生活をしていく上で必要な、しかも、しっかりとした考えをもっていること

〇「お金」について、どのような考えをもっていますか。
(1)大切に使わなければならない・・・一生懸命働いて働いた分だけ得られる、稼ぐのは容易ではない
(2)生きていく上で必要なもの、なくてはならないもの・・衣食住を保つため、心豊かに生きていくため
(3)限りあるもの・・・使えばなくなる、よく考えて優先順位を付けて購入、お金が足りなければ貯金をして購入
(4)働いて収入を得て、大切に使い、貯蓄もして、その上でお金に強く縛られない生活をしたい
(5)節約生活を送っていたが体調を崩した経験から、自分の健康のため、家族など大切な人のためにもお金を使う人生を楽しみたい
(6)お金は人間関係を左右するもの・・・貸し借り、おごることはしない、トラブルを回避するため


3「お金についての考え」は、学生の皆さんの多くが、幼い頃からの保護者や祖父母の教えや言い聞かせ、日常生活における体験を通して培われたと考えていること

〇 「お金についての考え」は、どのようにして培われたと思いますか。
(1)幼い頃からの保護者や祖父母の教えや言い聞かせ、家族と一緒に行った買い物のなどの体験を通して、お金について考える機会があったことによって培われた。
 ・一生懸命働いて得た大切なお金であること ・本当に必要なものを買うように ・節約するように
 ・収入の範囲で、食費・光熱費・学費・お稽古や部活の費用などすべてをまかない、貯金もしていること

※このような記述がありました。
 ・物を失くした時や買ったものを途中で使わなくなった時、お金はどのようにして手元に来るのか、父 が働いているから買えるのだということを母が言って聞かせてくれていました。
 ・「これは、お父さん、お母さんが一生懸命働いて稼いでくれたお金だよ。大切なお金だよ」と、お稽古や部活にお金がかかっていたので、祖母から言われていた言葉が心に残っています。
 ・買い物をするときに多くの工夫をして、節約をしていること、それでも一度に結構大きな出費となることを感じていました。
 ・「食べ物もすべてお金だよ」と母から言われたことがあって、残さずに食べることが大切なことだと教えられました。このことから物も大切にすること、授業にきちんと出席して勉強することも大切なことだというように、様々なことを大切にすることができるようになったと思っています。

(2)おこづかいの体験を通して

※おこづかいについては、一人一人が様々なもらい方をしている中で、お金についての考えを培ってきていました。このような記述がありました。
 ・小学生の頃から定額制のおこづかいをもらって自分で管理してきました。買ったものと残金、買いたいものを買ったらいくら残るか、我慢したもの、貯金額などについて、おこづかい帳を付けて月末に母と話をしていました。このことから多くのことを学んだように思います。収支を把握する大切さも理解でき、今の一人暮らしの自信(小さい自信ですが)につながっていると思います。
 ・小学生の頃からお年玉を自分で管理してきました。使い過ぎてあっという間になくなってしまった失敗も経験して、よく考えて使うことや貯金が大切であるという考えをもちました。
 ・おこづかいはもらっていなくて、欲しいものを買うことや友達と遊ぶ時のやりくりはお年玉だけで行ってきました。限られたお金を大切にしなければならないという考えをもっています。
 ・おこづかいはなく、欲しいものなどいつも保護者に買ってもらっていました。お金を扱ったことがありませんでした。大学生になってお金を扱うようになって、今勉強中です。


4「お金」について、深く考えた時が学生の皆さんそれぞれにあること
 特に、受験や、一人暮らしを始めた時、家庭の状況を知った時など、お金はより身近なものになり使い方などについて考えが深くなったこと
 同時に、保護者への感謝の気持ちが強くなったこと

〇「お金」について、最も深く考えたのはいつですか。どのようなことを考えましたか。

(1)大学受験・入学の時 
 ・多額の費用   ・学ぶにもこんなにお金がかかる
 ・弟妹も受験を控えている
 ・保護者はこんなに多額の費用を何も言わずに出してくれて頑張りなさいと励ましてくれる
 ・ずっと貯金してきたお年玉を入学の費用に充てた、もっと貯金をしておけばよかった
(2)奨学金申請の時   
 ・大学生活を支えるお金
 ・お金を借りるということは卒業後すぐから返済が必要
 ・返済していけるのか心配
(3)一人暮らしを始めて 
 ・生活費(家賃、光熱費、通信費等)をすべて自分で管理しなければならないと自覚した
 ・自分の生活に責任をもつということを自覚した
(4)アルバイトを始めて
 ・生活費(全部・一部)を自分で賄うことへの不安と緊張感
 ・働くことの大変さ、時間の長さ、努力の必要性、収入を得た時の喜び
 ・お金の価値・使い方・自己管理の大切さ
(5)二十歳になった時、「国民年金保険料納付書」が届いたとき
 ・税金、年金を納めて生活するのは大変、卒業したら自立しなければ
(6)クレジットカードを持つようになって
 ・自分名義のカード
 ・現金がなくても使える
 ・お金の使い方を今まで以上に考えるようになった
(7)自分の不注意で支出することになった時
 ・アルバイトで得た貴重なお金で失くしたものを再度購入しなければならなかった。
  二度とこんなことにならないようにしたい
(8)家計の状況を知った時
 ・自営業の状況、経済状況の変化、保護者のつぶやき(「お金がない」)を聞いた
 ・部活動、スポーツクラブ、習い事の費用は高額
 ・ことあるごとにお金のことを考えて生活するようになった
(9)家族が病気した時(父親、祖母)
 ・今後の生活の不安、医療保険の手続き
 ・入院や施設入所のための多額の費用に驚いたが、祖母の貯蓄で助かった
 ・貯蓄の大切さを家族全員で痛感した

※ 学費や生活費を奨学金とアルバイト収入で賄っている学生の皆さんは大変多くいらっしゃいます。特に、コロナ禍にあって、アルバイト収入がなくなり、また、かなりの減額になって、「『休業支援金』の申請を行った」、「保護者に援助を頼んだ」という声が聞かれました。「大学生活の充実と『お金』がこれほど密接な関係であることを痛感しました」という記述がありました。


 私は、学生の皆さんの振り返りの内容から、「お金」についてしっかりした考えをもっていることがわかり大変嬉しく思いました。同時に、「大切に使い貯蓄もしながら、強くお金に縛られない生活をしたい、自身の健康のため、大切な人のためにも使い人生を楽しみたい、心豊かに生きていきたい」という考えもあり感心しました。自立、心身の管理など、人が生きていく上での大切な意思も感じました。家庭における「お金の教育」が学生の皆さんの心をこのように育んできたのだろうと想像しました。

 私の講座は最終回となりました。4回にわたって読んでいただきましてありがとうございました。
 ここでもう一度「お金の教育」の目的が「お金を通じて自分の生活のこと、社会のこと、将来のことをしっかり考える態度を育むこと」であり、「お金の教育」によって身に付ける力は、「ものやお金の価値を知ること、健全な金銭感覚を身に付けること、お金と社会のかかわりを知ること、勤労の尊さを知ること」であることをおさらいしておきたいと思います。

 さあ! 「お金の教育」始めましょう!

「電子マネー」は、「見えないお金」と言われます。 「見えないお金」を上手に使う教育は、どのように行っていったらよいでしょう?

令和4年2月24日 

 前回は、「電子マネーの普及によって、子どもがお金を目にする機会が少なくなったからこそ、子どもがお金を見る・実感する・自分でお金を使う機会を作ることが重要だと考えられますよ」というお話をしました。
 一方、日常生活において、大人に限らず子どもも電子マネーを使用する機会が増えてきています。

 ☆子どものこんな声を聞きました。
  「カードをピッとすれば、電車にはただで乗れると思っていたよ。」
  「おかあさんは、カードで何でも買っているよ。魔法使いみたいだよ。」
  「ゲームのアイテムをいっぱい買いたいよ。お年玉で買ったけど、まだ欲しいよ。」

 前回までに紹介した調査アンケートでは、「子ども自身が交通系ICカードなど現金以外でお金を使うことがあると回答した保護者は 39.8%」という結果が示されています。中でも、現金以外で子どもがお金を使用する手段としてICカードが最も多い結果となっています。通学や通塾、家族と一緒に出かける際にも使用する機会が増えてきているのが現状のようです。

 電子マネーを使った支払いは、現金を持ち歩く必要がなく、財布の中身を気にすることなく買い物ができ、支払いはカードを端末にかざすだけ。さらに、ポイント還元やキャッシュバックなど節約や得にもなる、専用サイトからは支払い履歴のデータを見ることができるなど、様々なメリットがありますね。自分で財布からお金を取り出してお札や小銭を数えることや、受け取ったおつりの金額を確認することも必要もありません。
 その一方で、財布の中身を数えるのと同じように、いつでもどこでも残高を確認できるわけではありません。電子マネーが「見えないお金」と言われる理由はここにあります。買い物をすればその分お金が減っていくことを実感することはなかなか難しくなりますね。
 「見えないお金」を上手に使う教育は、どのように行っていったらよいでしょう。「見えないお金」を使う時代に生きる子どもにとって、大切な教育であると考えられますね。

「見えないお金」を上手に使う教育、こんなことから始めてみましょう!

  1. 電子マネーの仕組みを、子どもがわかる範囲で教えていきましょう。
    • 事前にチャージ(入金)の必要があること、口座引き落としのこと。
    • チャージした金額、口座残高、家計のやりくりの範囲で使えること。
    • 働いて得たお金の範囲で、チャージや引き落としができること、使うことができること。
  2.  保護者がICカードにチャージする場面を見せて、また、子ども自身にチャージさせて、「電子マネーは、お金」であることを実感させていきましょう。
    • 駅の券売機などでチャージして、金額を確認して、現金と同じ価値があること、大切に使うこと、なくさないように気を付けることなどを 話題にしていくといいですね。
  3.  電子マネーを持たせる場合は、約束を決めて、子ども自身が残高の管理ができるようにしていきましょう。
    • 使う範囲(交通費や通塾の時の軽食代など)、限度額、使用記録をつけることなど。
    • 保護者は、使用履歴を確認して、これをもとにサポートやアドバイスをしていくといいですね。

「お金の教育」家庭ではどのように行っていったらよいでしょう?

令和4年1月26日

 前回紹介した調査アンケートから、子どもの金融教育「お金の教育」について、早い段階から行う必要があると考えていますが、実際には行っていない保護者が多いことがわかりました。
 家庭では、「お金の教育」をどのように行っていったらよいでしょう?
 今回は、こんなやり方・考え方もありますよという紹介をしたいと思います。

子どもが自分でお金を使う機会をつくりましょう!
 現在、子どもは家族に頼まれておつかいに行く機会がなかなかありません。また、電子マネー決済やクレジットカード払い、インターネットショッピングの普及など、私たちのお金にかかわる環境は急速に変化しています。このような中にあって、子どもがお金を目にする機会が大変少なくなりました。
 子どもがこのまま大人になっていくのは心配ですね。
 こんな環境にあるからこそ、子どもがお金を見る・実感する、自分でお金を使う・・このような機会をつくることは大変重要だと考えられます。

こんなことから始めてみましょう!

  1. 機会をとらえて、わかる範囲から子どもとお金の話をしましょう。
    • わが家の経済状況、限られた収入の中でやりくりをしていること、将来のための貯えのことなどです。
  2. 子どもと一緒に買い物に行く機会を多くつくりましょう。
    • ものの値段、予算、品質表示や賞味期限、衝動買いをしないことなど、お金を使うときの姿勢や考え、 ものやサービスの選択の視点、お金を使うべきところと節制すべきところを教える場になります。
  3. 「おこづかい」を通してお金を管理させてみましょう。
    • 「おこづかい」を始める前に、まず、親子でよく話し合うことが大切です。
      • 始める時期、渡し方、金額、おこづかいを使う範囲について
      • お金とは何か、どのようにして手に入れるのか、使い方、扱い方について
    • 大人になった時にお金と上手に付き合えるようになるための練習をすると考えましょう。
    • 計画通りにいかず失敗しても、親の管理が行き届く時期なら「よい勉強」と捉えることができます。


「定額制のおこづかい」を経験させましょう!
 
是非「定額制のおこづかい」(週単位、月単位など)を経験させていきましょう。
 「お菓子を買う」、「友達と遊ぶときに使う」など、必要な時にその都度渡す「都度渡しのおこづかい」は、使うことが目的になりがちです。
 「定額制のおこづかい」だからこそ身に付く大切なものがあります。定期的に一定額のおこづかいをもらうことで、「どれを買うか、買わないか」「今買うか、後で買うか」「貯金もしよう」と、選択・判断していく中で計画力、自制力が身に付き、感謝の心も養っていくことができます。
 同時に、足りなくなっても追加のお金は渡さないこと、「おこづかい帳」の活用、おこづかい帳をもとに話し合うなどの保護者のサポートやアドバイスも大切です。慣れてきたら、欲しいものだけでなく、必要なもの(文具や交通費)など、おこづかいを使う範囲を広げて金額を増やしていきましょう。
 親子で話し合いながら、子どもが「使う楽しみ、貯める楽しみ」をバランスよく楽しんでいけるような「お金の教育」を行っていかれることを願っています。

「お金の教育」していますか?「お金の教育」始めましょう!

令和3年12月16日

私たちの生活とお金
 私たちの生活は、お金と深くかかわって成り立っています。
 日常生活を営むお金に加えて、子どもの誕生・進学・就職などの人生の節目には比較的大きなお金が必要となります。こうしたお金をどのように得て、どのように使うかは、個人の生活の安定や生き方だけでなく、社会の動きとも深くかかわっています。
 このため、子どもたちが「物を大切にする、勤労に感謝する、勤勉に働き人の役に立つ」ことなどを学ぶ中で、お金に対する正しい知識や態度を身に付けることは大変重要であると考えられます。このような過程において子どもたちは人格の基礎を形成していくことになります。

「お金の教育」は、いつから? どのように? 
 幼い子どもにもお金との接点があります。幼児期には、お金そのものの価値や大切さについてというよりも、持っている物や買った物を大切にすること、食べ物をきれいに残さないで食べることなど、物や食べ物を大切にする気持ちや態度を身に付けていくことから始めるとよいでしょう。
 そうして、小学生になったら、一緒に買い物に行くなどの体験を通じて、物や食べ物は、ただでは手に入らないこと、お金が必要なこと、そのお金はどのようにして得たのか、限りがあること、貯蓄も必要なことなどに気付かせていきましょう。また、おこづかいを通じて決められた金額の中でやりくりする経験を通じて、計画力・自制力・感謝の心などをはぐくんでいきましょう。
 ご家庭の実情に応じて、わかる範囲からわかりやすく教えていくことが大切でしょう。

「お金の教育」始めましょう!
 日本の家庭では「子どもの前でお金の話はしない」、学校でも「お金のことを教えるのはタブー」という考え方が長く続いてきました。しかし、お金の教育は、お金を通じて自分の生活のこと、社会のこと、将来のことをしっかり考える態度をはぐくむことにその目的があります。
 「2020年 子どものお小遣い・金融教育に関する調査アンケート」(「イ-・ラーニング研究所調べ」)
 【 調査期間 】 2020年10月8日~11月5日  
 【 調査地域 】 全国
 【 調査対象 】 20~50代の子どものいる保護者 男女216人
によると、「子どもの金融教育を行っていますか」という問いに、77.8%が「行っていない」、一方で「子どもの金融教育はいつから必要だと思いますか」という問いには、69.4%が「小学校低学年以下から」と回答しました。
 この調査アンケートの結果から、保護者は早い段階からお金の教育(「金融教育」)を行う必要があると考えていますが、実際には行っていない保護者が多いことがわかります。
 それでは、どのように行っていったらよいのか、この講座でお話を進めていきたいと思います。