森田 典子 先生

1.レジリエンスって何?心が折れないための秘密

令和8年4月15日

 はじめまして。元教師で思春期の親子関係専門家、そして中学生の母でもある森田典子です。全4回の連載で親子の笑顔を守る「心の育て方」をお届けします。

 第1回は心のバネ「レジリエンス」について。新生活から約1ヶ月。子ども達の心は、見えない「緊張の糸」がパンと張った状態です。連休で緊張が緩んだ瞬間に、その糸が切れて動けなくなることがあります。

 不登校という姿も、今の社会が子どもたちにとって、それだけ心の糸が切れやすい場所になっているサインかもしれません。

 そんな時代に知っておきたいのが、困難を乗り越える力「レジリエンス(心の回復力)」です。これは生まれ持った才能ではなく、日々の安心感の積み重ねで後天的に育んでいくことができる「心の習慣」です。柳の枝が風をしなやかに受け流して元に戻るように、心もまた、自分の力で元いた場所にそっと戻れる、そんな「しなやかな強さ」です。

 その土台になるのが、親からの「存在へのYES」。

 かつて試験前の息子に、私はこう伝えました。
 「どんな結果であれ、あなたが大好きであることに変わりはないよ。だから思い切りやっておいで」

 たとえ失敗しても「何をしたか(Doing)」ではなく「あなたという存在(Being)」を愛しているという信号を送り続けること。

 レジリエンスが高い人とは「決して落ち込まない人」ではありません。しっかり凹(へこ)んでも「自分の価値は1ミリも変わらない」という安心感があれば、人は自分の力で元の場所へ戻れるのです。

 まずは親が肩の力を抜き、この「心のバネ」の土台となる安心を届けることから始めてみませんか。

2.待つことで心は育つ。親ができる温かなサポート

令和8年5月12日

 第1回でお伝えした心のバネ「レジリエンス」。今回から、それを家庭で育むための具体的なヒントをお話しします。

 わが子が壁にぶつかったとき、親はつい「大丈夫?」「次は頑張ろう!」と励ましたくなります。でも、この良かれと思った「励まし」が、かえって子どもの心の重荷になっているとしたら。

 先日、わが家の中2の息子とその友人がリアルな本音を教えてくれました。 「テストの結果が悪かったときや試合に負けたとき、とにかくそっとしておいてほしい。何も言われたくない。時間が経ってから、さらっと声をかけてくれるのが一番いい。」
親が愛情からかける言葉が、子どもにとっては感情を整理する邪魔になることがある。これは親として少しショックですが、なぜ「そっとしておく時間」が大切なのかを知れば納得がいきます。

 思春期の脳内では今、「自分の感情と理性を自分で整える力」をつけようと懸命に心を調整しています。このデリケートな調整作業をしているときに、外から励ましの言葉をかけられると、脳の処理が追いつかず、かえってイライラや反発として表面化しやすくなるのです。

 だからこそ、今日からできることは、「待つ」こと。

 待つとは、何もしないということではありません。おすすめのアクションは、口出ししたくなる気持ちをそっと「差し入れ」に代えること。温かい飲み物や、好きなおやつなどをあえて無言で置いてみてください。

 このあえて何も言わないさりげないサポートこそが、前回お伝えした「存在へのYES」を伝え、自ら再び立ち上がろうとする子の背中をそっと支える温かなエールになります。

 次回は息子たちが求めていた「時間が経ってからの、さらっとした声かけ」のコツをお伝えしますね。

3.先回りの言葉をグッと我慢。子どもの心を育む「引き算の声かけ」とは

令和8年6月16日

 前回は、あえて何も言わずに「待つ」ことが最大のサポートになるとお話ししました。 今回は、その見守る時間の過ごし方と、子どもの気持ちに整理がついてきたときの声かけについて、一緒に考えていきましょう。

 立ち直るまでにかかる時間は、子どもによって一人ひとり、大きく異なります。数時間でケロッとする子もいれば、何日も引きずる子もいます。これは気質や発達のペースによる、ごく自然な個人差。だからこそ、保護者にとっての一番の踏ん張りどころは、目の前のこの子が自分で顔を上げるまで待てるかにかかっています。

 とはいえ、ただ待つのは本当にしんどいもの。見ているこちらまで苦しくなって、つい、

「だったら、◯◯先生に相談しちゃえばいいじゃない」
「いつまでもクヨクヨしていてもしょうがないでしょ」
「はい、もう切り替えて。次がんばろ!」

 …と、答えを差し出して急かしたくなります。私自身も堪えきれずに口にして「やってしまった」と反省したことが、何度もあります。

 そんなとき、試していただきたいのが、自分の気持ちに名前をつけること。

 「あ、私は今すごく焦ってるな」
 「落ち込む姿を見るのが不安なんだな」

 と、自分の感情を言葉にするだけで、心の暴走にブレーキがかかることが心理学の研究でも示されています。自分の感情を客観視できると、心に余白が生まれ、子どもに向けようとした言葉をいったん手元に置いておけるようになります。

 そうして「待つ」を乗り越え、子どもがようやく「さて、どうしようか」と顔を上げたとき。 ここからの一言が、何よりも大事です。

 意識したいのは、次の行動を「指定」せず、「問いかける」こと。

 「次はもっと早めに準備しなさいよ」
 「次のテストは、まず英語からやり直しね」
 「だったら明日、先生に話してきな」

 こうした先回りの言葉は、悪気なく子どもの思考のハンドルを親が握ってしまっている状態です。 代わりに、 

 「これから、どうしていきたい?」
 「一緒に手伝えること、ある?」

 と、声をかけてみてください。

 そして、子どもから「手伝ってほしい」「どうしたらいいか分からない」と言われたら、そこではじめて、

 「次は、どのタイミングで準備したらうまくいきそう?」
 「先生に伝えたいこと、一緒に整理してみる?」

 と、隣で一緒に状況を整理する側に回ってみてください。

 親が答えを出さず問いかける。たったそれだけのやり取りが、子どもの中に「自分の力で状況は変えられる」という小さな確信を積み上げていきます。この「自分で決めた」の積み重ねが、将来、子どもの心が悲しさでいっぱいになったときにも、「大丈夫」と信じて自らの足で踏み出す力となり、これからの人生を支えてくれる「しなやかな心の芯」になります。

 次回は最終回。 娘とのある日の何気ない会話から気づかされた、比較の時代を生き抜くための心の土台についてお届けしますね。

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